幸せになりたい!って思ったことがない人っているのかなぁ。
多分いないと思うんだけど、じゃあどうやったら幸せになれるか分かっている人ってどれくらいいるんだろう?
わたしは少なくとも20代の頃はほとんど分かってなかった。
以前、親友が婚約相手のことで悩んでいたときに「その人と結婚することがあなたにとって一番幸せ?」と尋ねたことがある。
それは、大切な人に幸せになってほしいと思ったから。
その友達はそのとき婚約していた彼と結婚し、いま幸せそうに暮らしている。
彼女にとっての幸せは彼と暮らす人生なのだと思う。
どうしたら幸せになれるのか?
そのことにわたしが想いを巡らせた理由は、有名なフランス映画『シェルブールの雨傘』を見たから。
この映画を見たことがない人のために、話をざっくりと紹介しますね。
これはフランスの港町・シェルブールに暮らす20歳の自動車整備工ギィと17歳のジュヌヴィエーヴ、2人の物語。
次の写真を見てもらえば分かると思うんですが、2人はいつもラブラブです。
日本ではこれだけイチャイチャしているカップルはちょっと痛い感じで見られるかもしれませんが、わたしが住んでいるパリではこれは普通の光景。
老若男女関係なく、みんな愛を自由に表現しています。
カトリーヌ・ドヌーヴ演じるジュヌヴィエーヴが微笑んでいる姿を見るだけで、こっちも笑顔になってきます。
もう、びっくりするほど可愛い。
常に仲の良い2人。
なのに、ギィが2年間の兵役を命じられたことで離れ離れになってしまうんです。
兵役を担わないといけないというのは仕方がないことだけど、こんなに愛し合ってる2人が離れちゃっていいの?いいの?いいわけないよね?
あああなんでこんなことに!!!!
という気持ちを抑えつつギィが兵役に出発する日の前夜のこのやりとりを見てください。
別れを寂しがるジュヌヴィエーヴにギィが語りかけるたくさんの言葉が心に沁みます。
彼はいつも優しいんですよね。
そして、残された最後の時間を大切に過ごそうね、と言うギィ。
2人で過ごした美しい思い出を支えにこれからも生きようね、というギィ。
死ぬまで愛しているからね、というギィ。
この流れを動画で観たい!というあなたはこちらをどうぞ。
このバックで流れるテーマソングがまた切ないんですよね。
この切ない別れのシーンのあと、なんとジュヌヴィエーヴはギィとの子供を妊娠していることを知ります。
でもギィは2年間帰ってこれないわけです。
2人は文通を続けるものの、ギィは忙しく手紙を送ることができないことも多く、寂しくなったジュヌヴィエーヴは母親が経営する雨傘屋さんの危機を救ってくれた宝石商の男性と結婚をするのです。
この写真の右の男性です。
彼もとても優しい人で『子供を一緒に育てよう。愛しています』とジュヌヴィエーヴに愛を告げるんですよね。
ジュヌヴィエーヴはきっと、お金があって、何不自由ない生活を送ることが出来れば幸せになれる、この寂しい気持ちはなくなると思ったのでしょう。
でも、幸せになるために選択した結婚のシーンで彼女は全く笑っていません。
ギィと一緒に居た頃はあんなに幸せそうに笑っていたのに。。
彼女が幸せに生きるために選んだものは、側にいてくれる自分を想ってくれる人と安定した生活(お金)。
その選択に彼女自身もずっと不安を抱いていたように思いますが、時間や愛してくれる人の存在が何とかそれを解決してくれると思っていたのかもしれません。
そして、物語は2年後=つまり、ギィが兵役を終えてシェルブールの街に戻ってきたときまで進みます。
彼女が選んだ未来は、ほんとうに彼女に幸せを運んできてくれたのか?
それが分かるのは次の最後のシーンじゃないでしょうか。
兵役から帰ってきたギィは、ジュヌヴィエーヴが結婚してシェルブールの街を離れたことを知った後、育ての親の娘と結婚します。
この結婚した彼女も、ギィも楽しそうに笑っています。
ある日、ガソリンスタンドを経営しながら子供と一緒に3人で幸せな日々を送っていたギィの元へ、ジュヌヴィエーヴが子供と一緒にガソリンを入れに来るんです。
これはきっと偶然じゃなくて、ちゃんとジュヌヴィエーヴはギィのことを調べてきたんでしょうね。
ジュヌヴィエーヴが連れている子供は、もちろんギィとの子供です。
「(子供に)会ってみる?」と尋ねるジュヌヴィエーヴにに対して、ギィの返事はこう答えます。
これは、もう2人の関係は終わっていて、それぞれ新たな道を歩んでいるんだよ。ということを表していますよね。
彼女もそのことを悟り帰ろうとしますが、振り返り、こう尋ねます。
Toi,Tu vas bien?
Oui,très bien.
この2つの会話、普通に使うと「元気?調子はどう?」という質問に対して『とても良いよ』という内容なんですが、この場面で使うと、この言葉に込められた意味は日本語に翻訳してあるような意味になるんでしょうね。
ジュヌヴィエーヴは、おそらく幸せではないのでしょう。
そして、彼のその返事を聞いて帰ろうとするジュヌヴィエーヴですが、最後にもう一度だけ、ギィの方を振り返ります。
このあとすぐに出て行く彼女に、前半で見たとても幸せそうな笑顔はありません。
2年後の世界でも、彼女は全く笑っていません。
おそらく思い描いていた幸せを手にしていないのです。
ぜひ動画でもどうぞ。6:01〜の転調は全身鳥肌が立つほどシビれます。
彼女が最後にギィに尋ねた『Tu vas bien?』という言葉は、彼に対する質問であると同時に、自らの人生に対する質問のように思います。
この問いは、ギタリストとジャーナリストの恋愛とそれぞれの人生を描いた平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』にも出てきます。
女性マネージャーが嘘をついて想いを寄せていたギタリストと結ばれ、子供を身ごもったことを知ったとき、元恋人のジャーナリストが尋ねたのは「それで……あなたは今、幸せなの?」という言葉でした。
「はい、すごく幸せです」
と女性マネージャーは返事をします。
「幸せ?」と尋ねる方も、それに答える方も、それぞれ強い覚悟を決めている。
どちらのシーンもとても心に残っています。
どうやったら幸せになれるのか?
何を手に入れれば幸せになれるのか?
そんな風に思う人は多いと思います。
幸せであることを望むのはみんな同じなんですよね。
でも、自分を愛してくれる人がいれば幸せになれるはず!とかお金があれば幸せになれるはず!と考えているときって、思考の主語が「わたし」になってないんだと思うんですよね。
勝手に作り上げた『幸せ』が主語になってる。
それは“わたし自身”とは切り離されたものです。
幸せになりたいと思ったときに、よく分からない幸せを求めて、それを叶えるために何かを手に入れようとするよりも、幸せだと感じる時間を誰とどんなことをしているときに生み出せているのか?じっくりと落ち着いて見つめてみることこそ、ほんとうに幸せになるための一歩なのかもしれません。
それがいつか分からないときは、あなたが心の底から笑っている時間が大きなヒントになるんじゃないでしょうか。
さいごに
『シェルブールの雨傘』はフランス語を勉強する上でもとても良い映画でした。
ミシェル・ルグランによる音楽もとても美しく、語学も風景も音楽もそれぞれたっぷりと楽しむことが出来ました。
ちなみに、この映画はアマゾンビデオで鑑賞しました。
観たことないなぁ、という方は是非ごらんください。
また、平野啓一郎さんの本は音楽好きな人はもちろん、美しい文章を読みたい人にもオススメ。ぜひサウンドトラックを聴きながら読んでみてください。