本が呼んでいた気がして

本屋さんに行って気になった本が、そのときの自分に必要な本だ。

そんな言葉をどこかで聞いたような気がする。

わたしもそう思う。

何も心が動かないときもあれば、いろんな本が輝きを放ったり、独特の音波でわたしを捉えることもあるから面白い。

この本との出会いは、わたしのふるさと・福知山の新町商店街にあるまぃまぃ堂だった。

まぃまぃ堂の奥には、Honeinu Booksという古本屋さんが展開している本のコーナーがある。

そこの本が古本だと知ったのは、お会計のときだった。

本の裏側には「1600円」と値段が書いてあるのだけど、それが約半額の値段になったのだ。

そこに置いてある本はすべてきれいだったし、とてもそのお店の雰囲気にも合っていたから、わたしは新品だと思って、新品の価格を払う気持ちでレジに行ったので余計に驚いた。

聞くと、きれいなものにこだわって揃えておられるそうだ。

たしかに、古本には新品に見えるものもあるけれど、それにこだわって自分のお店に展開する本を集めるというのは、結構、いやかなり大変なのではないだろうか。

日本で買ったこの本を、わたしはパリで読んでいる。

いつものわたしなら買わない本だけど、その異色感がわたしを和ませてくれる。

この本を買ったのは、なんとなく、呼ばれている気がしたからだ。

まずその装丁が気に入ったし、タイトルもいいな、と思った。

a piece of cake

一切れのケーキ。

その言葉に、わたしを重ねた。

パリに来てからのわたしは、何か失ったような、今までのわたしと違う感じが、ずっとずっとしている。

それがいいことなのか悪いことなのかわからない。

ただ、なにか欠けている。

それはホールケーキから、一切れのケーキをとったようにかけているのだ。

でも、そんな一切れを大切にしているような、完全でない、本の断片を集めたこの本にわたしの心は癒された。

わたしの世界にはない色を加えてくれたような気がした。

本が呼んでいたような気がしたけど、この本を探していたのは誰でもない、わたし自身なのかもしれない。

わたしはまたあのお店に寄りたいなと思っている。

また何か呼ばれているような気がして。

あと一ヶ月で、ふるさとに帰ります。

そのときが待ち遠しい。

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この記事を書いた人

株式会社Locatell代表取締役社長 / 一般社団法人福知山芸術文化振興会 代表理事 / プロのクラリネット奏者としての活動を2023年9月で休止し、起業家として芸術文化・まちづくり・海外を軸に複数の事業を展開中

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