言葉を紡ぐことは、周りとの距離を確認することである。

久しぶりに日本語の小説を読んだ。

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最近フランス語と英語の勉強に熱中し、何時間やっても苦にならないようになってきた。

もはや語学学習は趣味の領域に達している感じもする。

それと同時に、ここ数ヶ月日本語の本を全く読んでいなかったことに気がついた。

久しぶりに手にとった村上春樹の小説『風の歌を聴け』は、昨年わたしが誕生日を迎えたときお城ブロガーの大橋裕紀さんがプレゼントしてくださったamazonギフト券で購入させていただいたものです。

もうすぐまた年をとるのですが、改めて、その節は本当にありがとうございました!

読み初めてすぐに胸をえぐられた言葉

読み始めてすぐに、こんな言葉に出会った。

今、僕は語ろうと思う。もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、語り終えた時点でもあるいは事態は全く同じということになるかもしれない。結局のところ、文章を書くことは自己療養の手段ではなく、自己療養へのささやかな試みにしか過ぎないからだ。

しかし、正直に語ることはひどくむずかしい。僕が正直になろうとすればするほど、正確な言葉は闇の奥深くへと沈みこんでいく。弁解するつもりはない。少くともここに語られていることは現在の僕におけるベストだ。つけ加えることは何もない。それでも僕はこんな風にただ残念なことに彼ハートフィールドには最後まで自分の闘う相手の姿を明確に捉えることはできなかった。結局のところ、不毛であるということはそういったものなのだ。

わたしは暫く『書くこと』から距離を置いていたので、読んでいて、とても痛かった。

あぁ、逃げていたなぁと感じてしまった。

明確な理由はないけれど、去年の10月に音楽院に入って生活も大きく変わり、音楽に集中したいと思ったのは覚えている。

わたしは集中すると他のことは何も手がつかなくなるタイプで、同時期にブログの更新頻度もガクッと下がった。

『書く』という行為を生業にしていないわたしにとっても、それは簡単なことではないとつくづく感じる。

感じたことを表現できる語彙がないときは自らの無知を常に感じるし、今回読んだ村上春樹の作品には様々な著名人や音楽、映画も登場することから、知らない情報に出会うたびに自分の知識のなさを痛感する。

そういえば「知らない」ということや「出来ない」ということに対して、以前はとても敏感になっていた。きっと隠しきれてはいないのだけど、必死で隠そうとしていた。

でも、パリで生活するようになって全然わからないフランス語が飛び交い、今まで体験したことのない世界に放り込まれたことで、知らないことや出来ないことがあるのは当たり前で、でも悔しいと思えばそのときからすぐ勉強すればいいのだと、そんなシンプルな答えにいきついた。

これはパリで出会ったクラリネットの先生やフランス語の先生が、どんなにわたしが出来なかったり知らないことがあっても、馬鹿にしたり責めたりされなかったことも大きいと思う。

環境を変えたり自ら望む状態を明確にすることで、こんなにも考え方や生き方は変わるんだなぁとつくづく感じる。

さらにこんな言葉があった。

文章をかくという作業は、とりもなおさず自分と自分をとりまく事物との距離を確認することである。必要なものは感性ではなく、ものさしだ。

文章を書くこと、言葉を紡ぐことは、いつも周りとの距離を確認するものである。

そんなシンプルなことにわたしは本当の意味で気づいてなかったように思った。

確かに、ふとした言葉のやりとりで急速に距離感が離れるときはあるし、逆に近づくときもある。

それらは全て言葉によるものなんだと、なるほど、と唸った。

読んでいて最初に感じたこと

わたしは全然小説を読む人ではない。

大阪音大学にいた頃、大阪の吹奏楽コンクール常連校の顧問である丸谷明夫先生が特別講師として受け持っておられた授業をとっていた。

丸谷先生はいつも2、3冊本を鞄に入れて読まれているそうで、よく読書をする人は顔を見れば分かると仰っていた。

ちなみにわたしは『本を読みそうな顔をする人』として名前は挙げられなかったし、あの頃からそんなに本を読んでいない人生を送っている。

ただ、読書数は少ないにも関わらずこの村上春樹の『風の声を聴け』は、いま話題の小説家・燃え殻さんの作品にとても似ていると感じた。

読み終わって、なんとなくツイッターで2人の名前を検索してみると、2人の作品の関連性をまとめたライターの方もおられたし、好きな作家に2人をあげている人もちらほらいた。

村上春樹の作品もそんなに読んでいないし、燃え殻さんも小説は一作しか書いておられないのだけど、読んでいる間ずっと心が一定の間で冷めたりあたたまったりする不思議な感覚とか、行間にまだまだ真実が隠されていそうな感じがとても似ているなと思った。

さいごに

本を読んだとき、一節でも心に残る文章に出会えたなら、わたしは幸せだと思う。

それは、音楽でも同じでワンフレーズでも耳に残って離れないなら、それは幸せなことだ。

わたしは、音大でクラシックを学び、その後東京に行きジャズ、ブラジル音楽、チロル音楽、そして作曲もするようになった。

でも今はパリで再びクラシックを学んでいる。一周回って、戻ってきて得たことはたくさんある。

そして、日本語だけを話す状態から、フランス語を学び、英語を学び、そしてそれぞれの言葉をより美しく翻訳するために、美しい日本語に触れたいと思い、こうして再び日本語の小説を読み始めた。

一周回って、これから多くのことを得られるような気がする。

もしまた丸谷先生に会えるなら『おぉ、なんか本読んどりそうな顔になったな』と言われたい。

最近英語の長文を速く読む練習をしたり、シャドーイングに励んでいる効果なのか、やっぱり日本語の羅列は英語よりも理解力がはるかに速く、以前よりもスピーディーに本を読み終えることが出来たのは嬉しかったな。

わたしと、わたしを取り巻くあらゆるものとの距離感を探しながら、また文章も書いていきたいと改めて思うことができました。

本のあらすじなどが気になった方はぜひこちらをチェックしてみてください。

『風の歌を聴け』のあらすじとまとめ

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この記事を書いた人

株式会社Locatell代表取締役社長 / 一般社団法人福知山芸術文化振興会 代表理事 / プロのクラリネット奏者としての活動を2023年9月で休止し、起業家として芸術文化・まちづくり・海外を軸に複数の事業を展開中

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