最後の一時帰国で感じたこと、トリオライブ・リサイタルの御礼

3週間の一時帰国が終わり、パリに帰ってきました。

今回は東京で吉田佐和子トリオライブを開催。


フルート・ピッコロ:丸田悠太
ピアノ:野口茜

そのあと、東京・大阪・京都で『吉田佐和子クラリネットリサイタル』を開催。


東京公演ピアニスト:田邊安紀恵
大阪公演・京都公演ピアニスト:山口彩菜

そして近年は毎年参加している『東日本大震災復興チャリティーコンサート』に出演しました。


全ての公演が終わり、やりたいと思ったことに賛同し共演してくれる素敵な仲間がいる喜び、時間とお金をかけてコンサートに足を運んでくださるお客さまがいることへの感謝。

そして、自分のやりたいことに取り組むなかで多くの学びがあったことに対する感謝の気持ちが心にあたたかく共存しています。

演奏の変化は生き方に、生き方の変化は演奏に出る

photo by 矢野拓実

最近は、いつでも自分が良いと思うものには自信を持ち、自惚れることなく謙虚に、飾らず、気取らず、自然に、笑顔でいたいと思っています。

そういう気持ちの変化が演奏にも出ていたのか、お客さまからいただいた感想に以前よりもいい意味で肩の力が抜けた気がするというお声も多くいただきました。

演奏をよりよいものにしていきたいと試行錯誤する過程で必ず自分自身と向き合う時間があるのですが、その時間の過ごし方が変わったことが普段の生活や考え方の変化にもつながり、演奏にもつながったのかもしれません。

「リサイタル」への挑戦

photo by 矢野拓実

また、今回の一時帰国は大きな挑戦となる初の「リサイタル」に取り組みました。

わたしはもう今年で33歳になりますが、音大ではクラシックを学んだものの、その後東京に移り住み作曲をするようになったり、ジャズ、ブラジル音楽、チロル音楽などさまざまな音楽に触れたことから『リサイタルはもうやらないかもしれないな』と思っていました。

また、リサイタルと冠することを恐がっていた自分もいました。
チャレンジすることを恐れていたんです。

更に3都市でのリサイタルは2日に1回のペースで行ったのですが、パリ生活1年目は体を壊して家で寝込んでいたことが多かったこともあり、果たしてその公演をやりきるだけの体力はつけられるのか?そして演奏もやりきることが出来るのか?色々と対策はして臨みましたが、不安に感じている自分もいました。

ただ、リサイタルのプログラムを練習しているとあっという間に右腕が腱鞘炎のような状態になりたくさん練習をしたくても出来ない状態になってしまい、本番直前に予定していた現代曲を1曲減らすことになりました。楽しみにしてくださっていた方には大変申し訳ございませんでした。

右腕を気にしたまま本番を迎えたものの、それまでのさまざまな気持ちが解放されたのか、リサイタル当日は全公演において痛みを感じることなく終えることが出来ました。

この痛みはクラシックをやっているときに強く感じるもので、自作曲を演奏しているときは感じることがありません。そのため、顕在意識ではなく潜在意識で精神的に自分を追い詰めてしまっているのかなと考えています。実は音楽院に入学する前にもこのような症状があったことから、クラシックを演奏するときの自分の心と体の状態についてもう少し深く知る必要があると感じています。

『このプログラムを演奏できる自分で在りたい』と思って組んだプログラムでしたが、理想の自分になるためにはまだまだ足りないものがあるということに気づくことが出来ました。

わたしにしかできないリサイタルとは?

photo by 矢野拓実

GWの休暇中、あらゆるイベントや選択肢がある中でリサイタルに来てくださったということは、お客さまは何か期待されていることがあるはずです。

今回のリサイタルでは『わたしにしか出来ないリサイタルは何だろう?』と考え、次の4つのことを試みました。

1.私のコンサートでしか体験できないことをつくる
選曲理由や演奏しながら考えていることをMCで共有したり、お客さまが「聞きたい」と思っておられるであろうことをMCで話しました。
(例えばパリで大きく変わった価値観や、音楽院の様子、挫折や失敗など)
また、プーランクのソナタを演奏する前にはパリにあるプーランクの生家を訪れた時の話や実際にそこで撮影した写真をパンフレットに掲載しました。

2.私らしさが伝わる場所を選ぶ
MCがあると少しラフな雰囲気になるので、場所はカフェや固すぎないホールを選びました。(ただ場所によって外の音が入ってきたり、空調や照明の調整が繊細に出来ないことはもう少し配慮が必要だと感じました)

3.写真に撮りたくなるパンフレットをつくる
演奏プログラムはガッツリ重たいのですが、パンフレットをA4三つ折り両面カラーで作成し「リサイタル」の重たい感じを緩和し、写真に撮ってもらいやすいように工夫しました。

4.SNSで拡散しやすい状態にする
リサイタルを開催したときに終演後にピアニストさんと一緒に写真を撮るのですが、それをお客さまが全員帰ったあとにするのではなく、お客さまがいらっしゃるときに行いました。

今回MCを割と長い時間していたこともあり、MC中の写真はOKにしていたのですが、そのときと終演後にまず公式カメラで撮影したあとお客さまに撮っていただける時間を設けました。

やっぱり文章だけで伝えるよりも写真も用意した方が良いので、例えばSNSで「今日吉田佐和子さんのリサイタルに行ってきました」と文章だけで呟いていただくよりも、演奏者の写真やパンフレットの写真と一緒に文章を書いていただいた方が私をまだご存知ない方にも伝わる可能性がかなり高くなると考えています。

また、ただ「写真撮影していただける時間があります」と言うよりも「写真を撮っていただいて、感想と一緒にSNSに載せていただけると嬉しいです」とお伝えした方が投稿も多かった気がします。

いずれも少し工夫すればいいことなのですが、普段海外に住んでいて日本ではコンサートが出来ない分、いろんな工夫をしてお客さまの記憶にその日のことを残していただけたら、と考えました。

結果的にわたしが一番メインで使っているツイッターでは東京公演に来てくれたお客様がSNSで感想を呟いてくれて、それを見た大阪公演に行く人が楽しみにしていてくれるということが起こりました。

リサイタルって自分だけが頑張るものじゃないんだな、みんなこうして応援してくれてるんだなと感じることが出来て、すごく嬉しかったです。

お互いの違いを理解し合うことの大切さ

今回日本に帰ってきて何だか否定的な言葉を聞く機会が多いように感じました。

フランスという多民族国家に住むんだことがきっかけで、「お互いの違いを理解し合うこと」が大事だと思うようになりました。

以前は周りの目を気にしていたのに、今回は全力で行った演奏が嫌われてもいいなと思えたし、意見が違うことは恐れることじゃない。色んなバックグラウンドがあるのだから、むしろ表現、解釈、受け取り方が「違う」ことは自然なことだと思うことが出来ました。

ただ、それを相手に伝えるのかどうか?伝えるとしたらどんな伝え方をするのか?ということはあらゆる選択肢があります。

たまに傷つくこともあるし、わたしが相手を傷つけてしまっている場合もあると思うのですが「違うこと」に敏感になりすぎない自分でいたいです。

海外に住んでいることを活かしてSNSで発信する

photo by 矢野拓実

海外に住むデメリットとして、日本のお客さまと出会えないことがあります。

以前は「みんな、わたしのこと忘れてるかもしれないなぁ」「海外にいたらお客さまが増えることはないよね」と思っていたからこそ、渡仏してはじめて一時帰国をしたときにコンサートをした際にお客様の顔を見たときの安心感は忘れられません。

今回企画したトリオライブと3ヶ所のリサイタルで来てくださったお客様は約120名。

演奏するジャンルがオリジナルでも、クラシックでも、待っていてくださる方がちゃんといるのだということを実感することが出来ました。

photo by 矢野拓実

特に、音大時代のわたしの演奏を知る方が大阪公演に来てくださり、終演後に『もっとクラシックをやってください』と仰ってくださったのは本当に嬉しかったです。

4月に行ったパリで初めての自主公演では、お客さま1人1人にわたしはメッセージを送ってコンサートにお誘いしました。

日本では積み重ねてきたものや日頃のSNSを見てくださってる方もいて、SNSで告知すれば来てくださる方がいます。それはとてもありがたいことだと改めて感じることが出来たし「海外に住んでいるからこそ感じられることを発信していたことは間違いじゃなかったんだ」と感じることが出来ました。

東京と大阪でレッスンも行いました


この写真は銀座にあるヤマハのアトリエで撮影したものなんですが、レッスンやリハーサルでこの素敵な場所を使わせていただきました。

レッスンを受けてくださった方はアマチュアさん、学生さん、そしてプロの方まで様々。
レッスンに来てくださった方々の可能性を感じられる時間は本当に幸せで、わたし自身さまざまなことを学び、さらに良いレッスンがご提供できるようになりたいと考えています。

コンサートもレッスンも、皆さんの笑顔に出会える瞬間がわたしは本当に大好きなんだと感じることが出来ました。

完全帰国後も東京、大阪、そしてふるさと福知山でレッスン出来たらと思っています。

いそがしくても充実した生活をしたい

今回の一時帰国中には2つの展覧会へ行きました。

一つ目は中之島香雪美術館で行われている『明恵の夢と高山寺』。見終わった後はコラボランチをいただきました。

そして、大人気の『フェルメール展』。やっぱり本物の絵はすごく美しくて魅了されたし「取り持ち女」「手紙を書く女」が特に印象にのこりました。

また、来年大きなコンサートに挑戦する友人、ヴァイオリニストの辻本明日香ちゃんとミーティングもしました。

いそがしい日々でも、芸術に触れると心が満たされるし、友人と会うと笑顔になれる。パリに住んだことで『休む大切さ』や『芸術を身近に感じて生きる喜び』を学んだこともあり、こういう時間をもっと大切にしたいと強く感じました。

ライフワークとライスワーク

photo by 矢野拓実

ライフワークとライフワークという言葉をご存知でしょうか。

ライスワーク=ご飯を食べるための活動。
ライフワーク=夢や自分の好きなことを追い求める活動です。

これらはどちらも必要なものですが、この2つがあればいいかというと、わたしはここにもう1つ『実力を上げるためのチャレンジ』を加えることが大切だと考えています。音楽家としての成長を実感出来ない仕事をしているだけでは、やっぱり辛いんですよね。

今回の一時帰国の中で行ったコンサートをその3つの中で分類するとこうなります。

①ライスワーク:なし
(レッスンは、ライスワーク+ライフワークという感じです)
②ライフワーク:トリオライブ
③実力を上げるためのチャレンジ:リサイタル

この①②③がしっかりある状態が自分にとって一番心穏やかで生きやすいのだと、今回の一時帰国で強く感じることが出来ました。

若い頃はこれらを全て一緒にして考えていたように思うし、ライスワークばかりしているときもありました。でもそれだとわたしは上手くいかなかったんですよね。なんだかすごく心が空虚な感じがしていたんです。

きっと日本で慌ただしい日々を送っていたら見つけることが出来なかった「自分に合った生き方」や「自分」を見つけることが出来たのはパリ生活のおかげです。

そしてそれは同時に自分の見たくないところ、情けないところ、どうしようもないところと沢山向き合うことでもありました。

さいごに

photo by 矢野拓実

今回の一時帰国で出会った皆さん、出会えなかったけれどもコンサートを応援してくださった皆さんに心から感謝しています。

東京のリサイタルでスタッフをしてくれたパリに留学中のオーボエ奏者、笹原航太くん。

大阪公演で譜めくりをしてくれたパリに留学中のサックス奏者の長澤かなちゃん。

photo by 矢野拓実

大阪公演、京都公演で写真を撮ってくれたフォトグラファーの矢野拓実くん(写真左)と奥さんで陶芸家のユキガオさん。(写真右)
この記事に書いたことは、共演者の方々、お客さま、スタッフとして支えてくださった方がいなければ感じられなかったことです。

わたしは、1人では何も出来ないけれど、誰かと一緒になら、こんなに色んな景色を見ることが出来るんだと思うことが出来ました。

また、パリに戻る直前に久しぶりにジャズの師匠である谷口英治さんの演奏を聴きに行ってきました。

パリではなかなか好きなジャズクラリネットのサウンドに出会えていないこともあり、「あぁ、やっぱりこのサウンドが好きなんだなぁ」と実感しました。

来年4月にやりたいことは沢山ありますが、まずは来月6月に行われるディプロム試験に向けて頑張りたいと思います。

そうそう、今回リサイタルでフランセのコンチェルト全楽章をとりあげたのは、そのディプロム試験の曲として先生から提案を受けたからだったんですが、なんとジョークだったのです!!!!

「本当に全楽章やるんですか?」って3回くらい確認したんですが、、!涙

フランスジョークが分かるようになるにはまだしばらくかかりそうです(苦笑)

ディプロム試験ではフランセのコンチェルト1楽章、ドビュッシーの第一狂詩曲、そしてフランス人作曲家の現代音楽を演奏します。

このオチをリサイタルの大阪公演では言い忘れてしまったので、ここに書き記して今回の一時帰国の振り返りを終えたいと思います。

みなさんに、心からの感謝を込めて。

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この記事を書いた人

株式会社Locatell代表取締役社長 / 一般社団法人福知山芸術文化振興会 代表理事 / プロのクラリネット奏者としての活動を2023年9月で休止し、起業家として芸術文化・まちづくり・海外を軸に複数の事業を展開中

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