ニースにあるシャガール国立美術館へ行ってきました。
フランスでは唯一の現存芸術家に献じた美術館であり、シャガール本人と夫人の行為で所蔵作品が充実した美術館です。
入り口は一箇所だけで、まずチケットを買う場所とお土産を変える場所があります。
そこから少し行くとこちらの建物が見えてくるので、ここから入ります。
セキュリティチェックを受けたあと、チケットを見せるとガイドが必要か聞かれます。
パスポートなど身分証を預ける代わりにオーディオガイドを無料で借りることができます。
ちなみに日本語もあるので是非利用されることをおすすめします。
まず入ると、彼のアトリエの風景が写された写真が目に入ります。
ジヴェルニーのモネの家でもこういうアトリエの写真は見ましたが、美しい絵画たちがどんな場所で生まれたのかを見られるのは楽しいですね。
美術館の中には映像をゆっくり見られる場所もありましたが『絵画、色は、愛から創り出されるのではないでしょうか。』と言った彼の表情は愛に満ちているように見えます。
下書きのデッサンもいくつか展示されていました。
なんども同じ題材で書いていた様子がわかります。
美術館建設に関する写真などもありました。
タペストリーもありました。ここに描かれているものはすべて『聖書のメッセージ』に現れる人物や動物が再現されています。
彼は絵画だけでなく、ステンドグラスやモザイクなどさまざまなジャンルの作品を残しています。
シャガール国立美術館の音楽堂
美術館の中には音楽堂もあり、彼の生涯に関するビデオが上映されています。(このビデオは結構長いです)
音楽堂のステンドグラスは、天地創造の7日間が描かれています。
写真には全部写ってないのですが、ステンドグラスは全部で3面あり、右から左へと場面が変化しています。
20世紀後半を代表するチェロ奏者のムスティラフ・ロストロポーヴィチもここで演奏したようです。
音楽堂のステンドグラスの下書きも展示してありました。
聖書のメッセージを伝えるために建てられた美術館
シャガールはこの美術館を『聖書のメッセージ』収容のためにつくりたいと考えていたようです。
日本語版のガイドブックにはこのように書いてあります。
シャガールは信仰が大きく失われた20世紀において、その制作の大部分を宗教画に捧げました。
絵画も言葉のように聖書の解説でありうる、そして画家として神の使者のように果たすべき役割があると直感していたようです。
シャガールは人口65000人の半分以上をユダヤ人が占めているロシア領の町で、ユダヤ人の家庭に生まれました。
ユダヤ人がヨーロッパで受けた迫害について、以前チェコのテレジーンへ行ったときに実際に見た光景やユダヤ人の女性が強制収容所での出来事を描いた作品展に行っていろいろ感じるところがあります。
「ユダヤ人である」というだけで、自由な表現などが難しく、望むように生きるのが困難だった時代。
シャガール自身もロシアに生まれパリへ行くも、ナチスにより「退廃芸術家」に分類されたのちにフランスを離れ、アメリカに亡命したのちフランスへ帰国するなど生涯をさまざまな場所で過ごすことを余儀なくされました。
そんな中で彼が表現し続けた世界に触れることが出来ました。
シャガール国立美術館大展示室の12の作品
ここから紹介する12の作品が本人の意思もあり、大展示室に飾られているものです。
作品群の一つ目で最初に完成された作品でもある『人類の創造』
原始の大洋から出現した天使が、打ち捨てられたアダムを抱いています。
右上で回転する歯車の中に、ユダヤ人ミント聖書の歴史挿話が描かれています。
十字架にかけられているのはキリストのようですが、シャガールにとってはキリスト教の救世主ではなく第二次世界大戦勃発により犠牲になった多くのユダヤ人のことを指しているそう。
『楽園』
聖書について詳しく知らない人でも、アダムとイブが神様に「食べてはいけない」と言われていた果実を食べてしまったという話は聞いたことがあるんじゃないでしょうか?
この絵は、左にエバの創造、右に誘惑が描かれていて2部作のようになっています。
左下の黄色い人物はアダムで、腕を上げているのは肋骨から神がイブをつくったという話に基づいているそうです。
『楽園を追放されるアダムとイブ』
楽園を追放される2人の様子が描かれています。真ん中の天使は神の怒りを背負っているそうですが、同時に2人が脱出する道も示しているそうです。
右『ノアの箱舟』
左『岩を打つモーセ』
『ノアと虹』
神と人類の最初の結びつきが上の赤、左の黄色、右下の青という三原色と均衡のとれた構図で描かれています。
白い虹って斬新。この虹は眠っているノアの体へつながっているそう。
『アブラハムと三大天使』
シャガールは、右上の泡の中に最初が語る情景、天使たちからソドムとゴモラ(旧約聖書に登場する、天からの硫黄と火によって滅ぼされたとされる都市)の崩壊を聴くアブラハムを描いたそう。
『イサクの犠牲』
アブラハムがまさに息子を犠牲にしようとしていたとき、天使が静止した瞬間を描いています。
『ヤコブの夢』
ヤコブは、旧約聖書の創世記に登場するヘブライ人の族長。別名をイスラエルといい、イスラエルの民すなわちユダヤ人はみなヤコブの子孫を称する。 –Wikipediaより
2部作のようにはっきりと場面が2つに分けられて描かれていて、ヤコブが眠る丘の丸みがその2つの場面を関連づけています。
左の紫の色調で描かれているのは夜の場面で、ヤコブは夢の中でハシゴをのぼりくだりする天使を見ています。
『ヤコブと天使の戦い』
シャガールは自分の人生をユダヤ人民の歴史に混合させていて、この場面は彼の出生地であるヴィテプスクにあるシャガールの生家が描かれた村の上に描かれています。
深い青と紫は夜の様子を表しています。
ひれ伏すヤコブの姿と天使の黄砂による斜線の存在で活力が与えられていて、闘いの最後に天使がヤコブの額に触って祝福しています。
『モーセと燃える茨』
『法律の石版を受け取るモーセ』
右上にある2本の手で表現されている神が差し出した石版の方へモーセが上昇しています。
シャガール国立美術館その他の部屋の作品
こんなステンドグラスもありました。
近づいてみるとそれぞれが表情が豊かなことに驚きます。
次の『ソロモンの雅歌』は、聖書の有名な詩を想起する5点の作品からなっています。(わたしが写真におさめたのは3つ)
ソロモンは、旧約聖書の『列王記』に登場する古代イスラエル(イスラエル王国)の第3代の王。父はダビデ。古代イスラエルの最盛期を築いた。 –Wikipedhiaより
その歌はソロモンが書いたと言われていて、性的意味合いがありながらも聖書正典に統合されたそう。
それゆえに、ユダヤ人はこれを神戸ユダヤ人民そしてキリスト教徒の結びつきの象徴、神と教会のあいだにある愛の歌としていました。
赤い色調が印象的なんですが、肉の柔らかさと官能性を想起させ、それは聖書の歴史とシャガールが選んだ英雄ダビデの暴力を思い起こさせる血の色でもあります。
『ソロモンの雅歌Ⅰ』
《そなたの2つの乳房は2頭の子鹿/ユリの間で草を食むガゼルの双子のようだ。》
左上の黄色と青の2頭のガゼルは、この連作におけるソロモンの雅歌の歌詞を珍しくも的確に隠喩しています。
若い女性の裸体と、絡み合う男女は、ともに絵画の中に数回登場しています。
『ソロモンの雅歌Ⅱ』
月明かりで照らされた聖都市の上に、ゆったりと目を閉じた裸体の若い女性がその愛人(シャガールの自画像かもしれないそう)の見守る中、手のひらで揺すられているような作品。
手のひらの上には、シャガールの作品に家庭のしょうちょうのように現れるなじみ深い動物、ヤギの頭が見えています。
『ソロモンの雅歌Ⅲ』
さまざまな題材が女性の胸と腹のような3つの大きなアーチと、タブローを2つに分ける水平軸の周囲に配列されています。
水平軸の下に鏡に映ったように逆さになった2つの町があり、上はヴァンスとその大聖堂、下には緑のドームを冠する教会がありこれはシャガールの出身時ヴィテプスクを表しています。
タブローの下にはシャガールの生活が逆さまに描かれ、下縁に横たわる女性はシャガールの最初の妻ベラへのオマージュとなっています。
ちなみに、最初の妻となったベラは急死してしまったそうです。
『預言者エリヤ』
シャガールが80歳をすぎて制作したモザイクの作品。
弟子エリシャの目前で、天に拉致された預言者エリヤに捧げられたこの作品集は、エリヤの戦車の車輪である小さい円形から中央人物を囲む軌道面の円、周囲の星座の楕円を強調しています。
この美術館に与えられた意味・・聖書主題の選択は、シャガールの混合心理を物語っています。
さいごに
シャガール国立美術館に行けて本当に良かったです。
無料のオーディオガイドを聴いていると絵の理解も深まったし、そのおかげで(?)帰りにミュージアムショップで日本語のガイドブックも買いました。
宗教的な絵画を見るときはやっぱり聖書の内容を理解しておくとより楽しめるということがよく分かったので、聖書について勉強してみたいと思います。
ちなみに、美術館の入り口付近にはカフェもありました。
美術館へ行ったあとはすこし休憩されるのもおすすめです。